五木寛之氏講演会

大河の一滴」などの著書で有名な五木寛之さんの講演会に参加してきた。写真で見るのと同じ、長髪と色のついた眼鏡が印象的。講演のテーマは「今を生きる力」。さすがは有名作家、あきさせない話で聞いていてとても楽しい。昔、仏壇の製造で有名な地元で講演を行った時、紹介者が講師のプロフィールを紹介することころで、「五木さんは若くして文壇に入られ…」というところを「若くして仏壇に入られ…」と紹介されたことがある、などと話して会場の笑いをとっていた。

そんな風にして始まった講演だが本筋は、人を憂鬱にさせるような今の時代にあって、それをどう生きていくかということがテーマ。ここ数日、新聞の一面にはバラバラ殺人事件の記事がいくつも出ている。そんなことを見聞きするとなんとなく心持が暗くなる。なんだか重苦しい雰囲気になってしまう。

昔は、そこら中で流行り歌が聞こえてくるような明るさがあったのに、今は誰もが同じ歌を口ずさむようなことはなくなってしまった。最近のヒット曲で「泣きなさ〜い、笑いなさ〜い」と歌う唄がある。あの曲はバブル絶頂期に発表されたのだが、当時はウハウハの時代だったから、泣きなさ〜いなんて歌はまったく受け入れられなかったそうだ。それが、バブルも崩壊し、今の少し病んだ時代に入り、この歌の歌詞に共感する人が増え、大ヒットとなった。

ここ数年、金融、IT、医療業界からの講演依頼が多くなったそうだ。これらの業界はストレスが大きく、心を病む人が非常に多く、五木さんに生き方を講演してほしいという要望なのだそうだ。

五木さんは、こう話す。
これまではなんでも「前向き、プラス思考」などと言って、自分を無理やり奮い立たせる風潮があったが、「後ろ向き、マイナス思考」といったことも決して悪いことじゃない。人間は、ダメなときに頑張れと言われても、どうしようもできないときだってあるのです。ありのままの感情を無理やり押し込めてしまうと、どんどん自分の心が乾いてしまう。心が乾くと、軽くなり、自分を粗末に扱うようになって、自殺が増える。

苦しいときには、大きくため息をつくんです。うなだれて、背中を丸めて、二度、三度と大きなため息をつくんです。そうすると、背負っていた大きな重みがふっと軽くなったような心持になるんです。そしたら、とりあえず少し歩いてみる。

人間が持つ、悲しみの感情は大事なものです。無理やり前向きな感情にすりかえるのではなく、その悲しみを大事にするのです。つらいことですが、それが心に潤いを与え、命に重みを与えるのです。「頑張れ」と「頑張らなくていい」これを両方大事にしてください。

人間はそんなに上等にできていないみたいだから、正しさばかりでなく、そのままでいることも大事なようですね。なんだかほっとするような講演でした。